それは奇跡・・・ |
前回からの続きです。
「3時間でボトルが空になる!」
私の叫びがピットに届いたのかどうか
私には知る術がありませんでした。
しかし、ただ一つ言える事は
ドリンクを補給せずに走り続ける事は不可能だという事です。
バックストレートで殆ど残り少なくなったドリンクを口にする・・・
「この周回で住友輪業さんがボトルを持って来なければピットインしよう・・・」
もはや、これ以上、コース上で住友輪業さんを待つのは不可能でした。
その頃、臨時漕会のピットは慌ただしさを増していました。
私から千切れたkonoさんは自分のパートを走り終えてピットへ帰って来ました。
途中で脚が攣って片足ペダリングでの壮絶な帰還です。
住友輪業さんは、すぐさま計測バンドを受け取り暗闇のコースへ消えていきました。
もちろん、そのボトルゲージには私に渡すためのボトルが装着されていました。
2度目のボトル運びに関しては
私の位置がおおよそ分った上での出発でした。
konoさんがピットへ帰ってくる前の周回で
私と臨時漕会列車を形成してホームストレートを通過していました。
そのあと自分のパートを走り終えてピットイン・・・
まるで私の位置を教えるために臨時漕会列車を形成した様なものでした。
住友輪業さんにしてみれば
konoさんが千切れた分を取り戻せば私にボトルを渡す事が出来るのです。
私がアトウッドカーブを抜けモスエスに差し掛かった時です。
「コギコギさん!ボトル持って来ました!」
「うぉ~住友輪業さん!」
「この先の直線で渡しましょう」
ウイリアムズコーナーまでの直線でボトルの受け取りに成功!
第1コーナーを抜ければピットロードというタイミングでした。
「助かった!ありがとう!」
「僕の後ろについて脚を休めますか?」
「いや、付いて行くのは無理だ、
俺にかまわず行ってくれ!」
私がコントロールラインを通過した時のトータルタイムは3:00:00.004でした。
「3時間でボトルが空になる」という私の訴えに見事に応える事が出来たのです。
しかし、このボトル渡しこそ奇跡と言えば奇跡でした。
あの時、konoさんと臨時漕会列車を形成していなかったら?
直後にkonoさんがピットに帰っていなければ?
好きなタイミングでコースへ出られるのと違います。
あくまで選手交代のタイミングでしかコースへ出られません。
そのタイミングがこれ以上ないくらい絶妙だったのです。
これはまさに奇跡と言えるのではないでしょうか。
住友輪業さんから受け取った満タンのボトルを早速口にする。
ゴクリ、ゴクリと喉が鳴りました。
一気に3分の1は減ったか?
これで作戦は決まった!
あとはノンストップで走り続ける!
しかし、前半戦のオーバーペースは乳酸の蓄積となって私に襲い掛かっていました。
ボトルを受け取った周回のラップタイムは7分20秒・・・
もはや6分台を維持する事は夢のまた夢・・・
膨れ上がった酸素負債はサラ金の高利よりも冷酷でした。
ボトルを受け取るまで
周回ごとの心拍のアベレージは160以上を維持していましたが
ボトルを受け取ってからは150台まで落ちていました。
脳は体にペースアップを命令しますが
体がその命令を拒絶しているようです。
「体が重い!」
全身を巡る血液が鉛を運んでいる様に思えました。
こんな体で残り1時間を戦えるのか?
バックストレートのアスファルトは漆黒の闇と同化して
まるで広大な宇宙の様でした。
いくつもの光が私を追い越していきました。
この暗闇の中で酸素負債を抱えて走っているのは自分だけ・・・
そんな錯覚に陥っていました。
アトウッドカーブを過ぎて緩い上りが続きます。
前半戦は、さほど勾配を感じなかったのに
重力が私を攻撃しているのがよく分りました。
ほんの僅かな勾配もボディーブローのように効いてくる。
モスエスを過ぎたあたりだろうか・・・
「コギコギちゃぁ~ん!
行けぇ~!」
「おぉおおおお!」
阪神の応援に使う鳴り物を打ち鳴らしながら
必死に声を上げていたのは同級生のフクちゃんでした。
チームマッサーとして参加していましたが
その合間を縫ってピットからわざわざ移動して応援してくれていたのです。
「やっぱり、あいつ・・・
一番苦しいところを知ってやがる・・・」
枯れそうになる闘争本能を
もう一度絞り出してみようと思いました。
ホームストレートの臨時漕会ピット前を通過する時
私のラップタイムが落ち続けている事を察知した仲間の声援が聞こえました。
「コギコギさぁ~ん!踏ん張って!」
「コギコギさん!我慢!」
彼らの言葉には確かに魂が宿っているように思えました。
普通の練習なら、もうとっくに終わってる!
それがまだペダルを踏んでいるのだから・・・
30周目のラップタイムは7分52秒・・・
「列車に積極的に乗る作戦は
勇気では無くて愚かだったのだろうか?」
前半戦で稼いだラップタイムを後半戦でどんどん食い潰す・・・
体力と気力が失われ顔を上げておく事さえも苦しくなってきました。
「前を見なきゃ・・・」
「前を見なきゃ落車する・・・」
「少し(ペースを)落とそう・・・」
心が折れたからなのか、それとも最後まで戦うためなのか?
勇気なのか、それとも愚かなのか?
31周目のラップタイムは8分08秒・・・
32周目のラップタイムは8分01秒・・・
遂に8分台を連発し前半戦で稼いだタイムを更に浪費しました。
私はこのまま漆黒の闇に沈んでしまうのか?
それとも再び奇跡を起こすのか?
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
今回のレースはドラマが多すぎて今日も終われませんでした。
続きは後日書くつもりです。
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ああ、これが本であったら絶対ページをめくる手がとまらなくなっています。
新聞連載でも良いくらい「面白い」。
今回、初めて外側からレースを見させてもらってまた違った感動をもらいましたよ
まっ、経験あるだけに、一番苦しいとこで、応援できたのも、収穫でした(≧∇≦)
今、はじめて知りました。
そういえば、コギコギさんにボトルを渡す1周前に、今回のレースで最も良い列車に付くことができたんですよね。
その列車があのタイミングで来なかったら、僕はボトルを持ったまま、ピットに入ってゆくコギコギさんの背中を見送ることになっていたのかもしれません。
いろんな要素が全て上手くいく方になっていたとは・・・感動です。
自分が小説書いていたとしたら
「そりゃ、創りすぎやろ!」って突っ込んでいたかも。
住友輪業さんは「持ってる」んじゃないですか?
欲が無い分、何か持ってますよ、きっと・・・
今回の記事の写真はモーニングさん撮影です。
いい写真を撮っていただきました。
昔はね、レースの記事は、殆ど写真無しって事もあったんですけどね。
今じゃ仲間が撮ってくれた写真で
臨場感のある記事が書けてます。
手に汗を握ります(^o^)