鮎帰る故郷をロードバイクで走る |
またまた前回からの続きです。
雷の音が遠ざかるのを確認して私達は上月のトンネルを後にしました。
千種川沿いの国道373号線を上郡へ向けて南下します。
この道は下り基調なので北風に乗れば
まるで滑空するように高速巡航を楽しむ事が出来ます。
しかし、夏場は海から千種川を通り道に強烈な向かい風が吹きます。
8月4日という時期を考えれば向かい風を覚悟しなければなりません。
故郷の千種川沿いを滑空するように走りたいというかっぱーさんの願いは
きっと叶えられぬものと諦めていました。
しかし・・・
真夏の千種川に北風が吹いた・・・
上流の佐用が局地的な雷雨に見舞われたため
千種川を通り道に北風が吹いたのです。
私達は雨の中を追い風に乗る事が出来ました。
千種川沿いを2羽のツバメが戯れるように走る・・・
佐用では目が開けられないくらいに激しかった雨が
上郡に入ると小雨になりました。
「ちょっと脇道に入ってもいいですか?」
かっぱーさんの誘導で赤松から橋を渡りました。
「こちらの方が交通量が少なくて走りやすいんです。
僕はこっちの方の道が好きですね」
生活道を走り始めるとかっぱーさんは饒舌になりました。
「上郡は室町幕府創設に貢献した赤松円心(あかまつえんしん)が有名ですが
赤松円心の事は地域の歴史学習なんかで勉強するんですよ」
20年ぶりに訪れた上郡の空気が彼の記憶を紐解き始めました。
高校生までの記憶というのは3歳までの記憶と違って
具体的でストーリー性があるのです。
同級生の事や地域の話し、そして家族の事・・・
「あそこに同級生の家があって・・・」
「卒業式の日には、そいつの家がお寺で広いもんだから、みんなで集まって・・・」

饒舌に語っていたかっぱーさんが立ち止まりました。
「ちょっと待って下さい
中学校は・・・建物すら残っていないのか・・・」
かつてかっぱーさんが通っていた中学校の建物は無くなり
太陽光発電のソーラーパネルが並べられていました。
「あの石塔だけが、かろうじて残っていますね」
太陽光発電施設のフェンスの向こう側・・・
その片隅にとり残された様に石塔が建っていました。
20年前のかっぱーさんの記憶を繋ぐわずかな遺産。
故郷といえど同じ姿でたたずんでいるわけではありません。
時の流れは、時には残酷に故郷の姿を変えてしまうのです。
あゆみ橋を渡って国道373号線に出ようとした時でした。
「コギコギさんは、どの道を使って相生に帰るつもりですか?」
「国道は止めて農道から帰るつもりです」
「そうですか・・・
僕も相生までご一緒します」
「えっ?かっぱーさん上郡に車止めてるんでしょ?」
「そうです。
でも、そのコギコギさんが帰ろうとしている道は
僕の小学生時代の遊び場だったところなんですよ」
「でも、相生までっていうのは・・・」
「いいんです。
行きましょう!」

彼は生き生きと小学生時代の思い出を語り始めました。
「この辺に古墳があるんですが、そこは石室に入る事が出来るんです」
「じゃあ、小学生時代のかっぱーさんは
石室に入って遊びましたね」
「そうですね、石室に入って遊びました」
「コギコギさん、あそこに杉の木が立っているでしょ・・・
あの木はね、僕が子供の頃は、ほんの小さな木だったんですが
あんなに大きくなってる・・・」
「うわぁ~時の流れを感じるねぇ~」

「この川で、よく魚をとって遊びました。
この辺は、よく捕れたけど、あっちは捕れなくて…」
「オヤジと鮎とりに行って、夜の方がよくとれるからと、
お前先に帰れと言われて、この道を帰ったな…」
「この集落の神社はここで、四十七士の絵馬があるんですよ」
何処にでもある田園風景がかっぱーさんの記憶を
溢れるように再生させているようでした。
この何処にでもある景色こそかっぱーさんの故郷なのです。
ちょうど校区が変わるところでかっぱーさんの記憶は終わりました。
私達は相生へ向けて農道を走ります。
するとまた空が暗くなりゴロゴロと雷の音・・・
「かっぱーさん!空、ヤバいっすね!」
すると、この日3回目の豪雨が私達を襲いました。
「うぉおおおお!
またかよぉおおおお!
一日に3回も雨に降られるなんてぇえええ!」
「かっぱーさん、
ホントに相生まで行っていいんですかぁああ!」
「いいんですよ!」

私はかっぱーさんに車で上郡まで送る事を申し出ました。
しかし、かっぱーさんは私の提案に首を縦に振る事はありませんでした。
「コギコギさん、ありがとう・・・
でも、いいです」
「この雨ですよ」
「この雨でも、今度は坂越から上郡に帰りたいんです・・・
今日は故郷を走るって決めた日ですから・・・」
そう言うと、かっぱーさんは再び故郷の上郡へ向けて走り去って行きました。
彼が向かった上郡に
もはや彼が帰るべき家はありません。
しかし、彼にとって、やはり故郷は上郡なのです。
故郷の上郡は昔のままではありませんでした。
時間は止まってはくれません。
そして人は老いて故郷も変化してゆきます。
時の流れに抗う事が出来ない定めに郷愁を感じるのかもしれません。
鮎は故郷の川の匂いを記憶しているといいます。
その記憶を頼りに故郷の川に帰ってくる・・・
今日、彼は千種川の鮎が川を遡って帰ってくる様に
故郷の上郡に帰って来たのです。
走行距離…143.69km
時間…6:16:48
平均速度…22.87km
最高速度…54.34km
平均CAD…76
積算距離…29238km
消費㌍…2819kcal
補給食…###kcal
心拍…Avg.126 Max.179
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
あなたには故郷がありますか?
もし故郷があるならロードバイクで走ってみるのもいいかもしれません。
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そういうことが最近すごく寂しくて写真撮りまくってます
自分のことを記事にしていただくと、なんだかコメントしづらいので、黙っていたのですが、まずは先輩、ありがとうございました。最高の夏の思い出になりました。
今回は一枚も写真を撮りませんでした。ものぐさで、あまりもともと写真はとらないのですが、しっかり目に焼き付けておきました。頭の中の画がぼやけてきたら、また走りに行こうと思います。
ただ単に 生まれ故郷だから…というだけで無く 、今の私の歳で逝ってしまった父と 92歳の今 痴呆の進んだ母との生活があった所へ 帰ってみたい…そんな気持ちですね。
ロードバイクは,哲学する乗りものですね。
良くも悪くも常に変化しています。
自分だけが同じところに居るつもりでも
実は昨日の自分と今日の自分では違うはず。
月日が積み重なると大きくかわっていくものなのかも・・・
最近23年ぶりに大学の後輩に再会しまして・・・
私、あんまり変わって無いそうで
確かに自分は成長していない気がする。
だって一日に3回も雨に降られたし・・・
一緒に走っていて、
かっぱーさんの上郡に対する思いが伝わってきました。
帰る家は無くても故郷は故郷・・・
また走りに来れるんですから・・・
sadagさんの故郷も時の流れに抗う事は出来なかったわけですね。
昔の故郷の姿はsadagさんの心の中にだけあるということですか・・・
心の中の故郷の姿に郷愁を感じたら
どうでしょう、一度、自転車で故郷を走ってみては・・・
自転車の速度は自分でさえ分らなかった
sadagさんの故郷の記憶を掘り起こすかもしれませんよ。
輪行でいってはいかがでしょうか?
御両親と一緒に過ごされた空間に何かを感じるのではないでしょうか。
何処にでもある郵便局や小学校、お地蔵さんに裏の畑
線路の向こうのお墓、そこで生活していたからこそ
感じる何かがあるかもしれませんよ。
このフレーズ、めっちゃいいじゃないですか!
今回はやられたな・・・
ロードバイクで哲学は
たぶん、ロードバイクの速度にあるのかも。
時には速く、時にはゆっくりと・・・
まるで思考する様に速度も様々に変化させる事が出来る。
体全体で空間を感じる事が
心にとっていい事なのかもしれませんね

