お~い!臨時漕会! さっきから前、牽いてねぇぞぉ! |
前回からの続きです。
レース序盤を苦しみながら走るやつはいない。
しかし、中盤戦になるとそうはいかない。
1時間を超えたあたりから
先頭集団からこぼれ落ちてくる人数が増えてくる。
先頭集団に乗っている時は
大きな空気の塊と一緒に移動する様な
その空間だけ恐ろしく空気抵抗の低い中で走れるのだが
ひとたび先頭集団から千切れてしまうと
一気に空気の壁が立ちはだかるのである。
虚しくも、ある瞬間から踏んでも踏んでもついて行けなくなる。
選ばれし先頭集団のメンバーから
タダの人になってしまうのだ。
いや、タダの人ではない。
両脚に抱えきれないほどの乳酸を蓄積させた
傷だらけのローディーに成り下がってしまうのだ。
彼らに待っているのは
まさに地獄である。
拷問の様に襲い掛かる筋痙攣。
格下のメンバーに追い越される屈辱。
鉛の様に重くなった体に鞭打って
ポンコツの自分を動かし続けなければならない。
それはまさに地獄・・・
私もそんな経験をしたことがあるからこそ
先頭集団から落ちてきたワタルさんが
けっこうキツイ事は痛いほど分かった。
変化はそれだけではない。
我々が参加している集団をコントロールしている
先頭の4人にも変化が表れ始めた。
同一チームと言えども走力は全く同じではない。
最初から最後まで完全なトレインを形成して走るのは至難の業。
走力の劣るものが千切れるという残酷が必ず訪れる。
その変化は後続の我々には如実に伝わった。
「後ろの二人・・・
そろそろヤバいかな・・・」
ちょとした上りで車間が開くのはまだしも
ホームストレートの上り基調でさえも
安定してトレインを形成出来なくなってきている。
後続の我々も順序を微妙に入れ替えながら
前方の4人列車の動きを注視していた。
そして私が彼らの背後に付いていた時だった。
私の前を走るトレインの形が崩れたかと思うと
堪らず、と言った感じで
最後尾が先頭交代要求のハンドサインを出してきた。
私は彼らの要求にしたがって先頭を引き受ける。
「今まで牽いてくれてありがとう・・・」
この瞬間から
この集団をコントロールする主体が臨時漕会に入れ替わったのである。
私の視界から彼らの背中が消え
久々に見晴らしの良い先頭の景色が見えた。
私は増大する空気抵抗に備えて
顎をステムに近づけてサドルの前よりにポジションを変えた。
「ここからは先頭交代しながら行く!」
前回、秋のレースで共同戦線を張ったタフBeeさんは
私とのローテーションがどこで行われるか心得ていた。
モスエスからの上り基調で私の速度が落ちると
タフBeeさんが前に出る。
ホームストレートを過ぎて最初の左カーブから上りに転じると
ホッブスコーナーまでの間に私がダンシングで前に出る。
ハンドサインは要らない。
あの時と同じだ。
脚質の違いが絶妙に先頭交代をさせる。
しかし、ラップタイムはじりじりと落ちていった。
6分前半から6分後半へ・・・
心拍は目標心拍を維持している。
なぜラップタイムが落ちるのか?
筋肉の疲労?
いや違う。
ふとコース脇に掲げられたのぼり旗を見る。
「風だ!
向かい風が吹いている!
タフBeeさん!
ホームストレートは誰かの後ろに付いて!」
霧が出る程風の無かったサーキットに風が吹き始めた。
いよいよ最大の敵が目を覚ましたのである。
我々は風向きを考えて戦わなければならなくなった。
向かい風はどこか?
追風はどこか?
そして風除けは?
周回を重ね
私が先頭を受け持っている時である。
後続のタフBeeさんが助言してくれた。
「コギコギさん!
あのオレンジのチームジャージ着てる奴
俺のチームメイトっす!
アイツも風除けにしましょう!」
私が彼の後ろに付くと
タフBeeさんがスルスルと前に行き
彼とひと言ふた言、言葉を交わした。
状況が共有化されると
彼とタフBeeさんとで先頭を回し始めたのである。
恐らくは我々より一周、周回遅れなのだが
タフBeeさんに声を掛けられたことで彼は息を吹き返したのだ。
この集団に参加している私をはじめ
ショーン君、そして先頭集団から落ちてきたワタル君にとっては
体力を温存出来て好都合なように見えるが
実際は付いて行くだけで精一杯の状況だった。
そろそろ乳酸の蓄積がレッドラインを超えようとしていたのである。
これ以上ペースが上がれば脚が攣る!
しかし、風除けを彼等だけに押し付ける訳にはいかない。
「お~い!臨時漕会!
さっきから前、牽いてねぇぞぉ!」
私が嫌味半分で声を上げると
後ろでショーン君が呟くのが聞こえた。
「昔のレースは前に飛び出したけど・・・
今は前に出れねぇっす・・・」
レースの後半に差し掛かって
そろそろ限界を迎えようとしている様だった。
ワタル君は苦笑い・・・
かと思ったら?
彼は加速して・・・
前に出た!
多分・・・
プ・ラ・イ・ド
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
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