羨ましくて声を掛けた |
前回からの続きです。
竹野浜から東に、但馬漁火ラインを走ります。
少し走るだけで海水浴客で賑わっていた喧騒はどこ吹く風・・・
時折、凪の海面に波跡(なみあと)を残しながら小舟が進むのが見えました。
海底の白い砂と黒い海藻を透かしながら
時にはエメラルドグリーン、
時にはサファイヤブルーの鮮やかな海が広がります。
それが、リアス式海岸の絶妙な不規則性と相まって
思わず立ち止まって見とれてしまう景色を作り出していたのです。
私たちは、曲がりくねった漁火ラインのワインディングを
鳥が戯れながら飛ぶ様に走りました。
羽ばたいて羽ばたいて上昇したかと思うと
入り江の弧に沿って体を傾けながら下降します。
そして海面すれすれを滑空するれば
再び羽ばたいて羽ばたいて上昇に転ずるのです。
「日本海ってキレイですよねぇ~」
「透明度高いしなぁ~」
いつもなら坂で飛び出すはずのメンバーも
景色を味わう様に走りました。
2~3台に抜かれた程度、殆ど貸し切り状態です。
あれだけ沢山海水浴客が居たのに
みんな元来た道を最短距離で帰って行くのでしょう。
彼らは、この景色を見ずに都会に帰ります。
勿体ないような気もしますが
自転車でここを走る私たちにとっては好都合という事になるでしょう。
この道で私たちを追い越した数少ない車の1台に
恐らく彼は乗っていたのだと思います。
車窓から、身を乗り出す様に
私たちを見ていたに違いありません。
私たちは城崎マリンワールドを見下ろせる場所に自転車を止めました。
「ほら、今からイルカショーかもよ」
「ホントですね。
ここからだとタダでイルカショー見えるかな」
「いやぁ~よくは見えないよ」
「それよりも向こうは
もう京都の海岸だよ」
高台から見る紺碧の海の向こうには
水蒸気をエネルギーとして存分に取り込んだ入道雲が
まるで支配者の様に立ち上っていました。
如何にも夏らしい空なのですが
ここは風の通り道・・・
汗に湿った肌が敏感に風向きを感じました。
ほんの少し涼しさを感じながら
京都へ続くリアス式海岸を眺めます。
白髪の頭を綺麗に丸刈りにした
如何にも人懐っこい笑顔の男性に声を掛けられました。
「君達、今日は何キロくらい走ってるの?」
「今日は養父市の道の駅を拠点に100kmくらいですかね」
「ええっ!ひゃっきろ?
100kmって、ここから大阪まで行くで」
「そうですね。
でも100kmというのは
こういう自転車にとっては普通なんですよ。
来週は瀬戸内海と日本海を往復する予定です。
瀬戸内海の海の水を小瓶に詰めて
それを日本海に流しに行くんです」
そう答えると男性は
そりゃ面白そうだねと言う代わりに目を細めました。
「君達、いくつだい?」
「わ、私は、ちょっといってますが・・・
彼等はみんな30代です」
「僕はちょうど30ですよ」
バスク輪さんの答えが彼の予想通りだったのか
彼は満足げに笑いました。
「わっはっはっ!
ワシの半分以下だな。
ワシは73だから」
するとバスク輪さんは
自分が距離を走れるのは
若いからでは無いと云わんばかりに答えます。
「僕たちの知り合いには
70代のトライアスリートがいますよ。
アイアンマンだから水泳3.9km、自転車180.2km、
それにフルマラソンを走ります」
「し、信じられん・・・」
「その他にも自転車で400km以上走った人が3人います。
50代でも走ってますからねぇ~」
「よ、よ、よ、よんひゃくぅう?
そんなん、どないして走るん?」
「一晩中走る(笑)」
「相当訓練積むんだろ?」
その質問には私が答えます。
「最初は30kmくらいから始めます。
徐々に距離を延ばしていくと
体がそういう体に変化してくる。
例えば血圧を計るときに脈拍も計るでしょ。
その脈が段々少なくなってくる。
心臓の力が強くなって
1回のドックンで、
より沢山の血液を送り出せるようになるんです」
話が心臓の話に及ぶと
それまで笑顔だった彼の表情が途端に曇りました。
「ワシの心臓は大きくなって
拍動がうまく出来ない・・・」
そう言うと彼はウエストポーチから
小さなスプレーを取り出して
それを私に見せながら話を続けました。
「今じゃニトロを常に持っていなくちゃならない・・・
運動は、出来ないな・・・
だから、羨ましくてね。
声を掛けた・・・」
なるほど彼は羨ましくて声を掛けてきたのです。
但馬漁火ラインのワインディングロードを
まるで鳥が戯れる様に走る我々を
そしてチームジャージに身を包み颯爽と隊列を組んで走る我々を
彼の男心が羨ましいと感じたのです。
私は曇った彼の表情を再び笑顔に戻すべく言葉を探しました。
しかし、そう都合のいい言葉は見つかりません。
風が私の湿った肌を少しひんやりさせる様に撫でて行きました。
沈黙が続くのを止めたのは彼の方でした。
「昨日は浜坂、その前は境港、
今日は竹野の後は玄武洞に行って
明日は京都、天橋立・・・
孫と旅行ですよ」
「お孫さんと・・・
そりゃあいい・・・
日本海側の旅ですね」
そう答えると彼は満足げに笑ってくれました。
「それじゃあ、お大事に!」
パチン!
クリートをはめる音を合図に我々は走り出しました。
「お大事に・・・か・・・」
生老病死・・・
いつまでも好きな事を出来るとは限りません。
だから・・・というわけではありませんが
自転車に乗っていると
今が一番大事と思える瞬間が度々あるんですよね。
下り基調の追い風で高速巡行している時だとか
レースのゴール前でもがいている時だとか・・・
自分の力を発揮している時って
命自体が輝いている気がします。
そこに将来のためというのは無い(私の場合ですが)。
明日なんて交通事故で死んでしまうかもしれないじゃないですか。
今、自転車に乗って充実しているこの瞬間こそ永遠に続いてほしい・・・
そんな風に感じるんですよね。
それを快楽主義だと言われればそうなのかもしれません。
しかし、自分の命が輝く快感を経験してしまうと
その快感から抜け出せなくなる気がします。
だから大きな落車を経験しても
再び自転車に乗る人が多いんじゃないでしょうか。
私も、いつまでも自転車に乗り続ける事は出来ないでしょう。
どんな理由で乗れなくなるか分かりません。
だからこそ・・・
今、自転車に乗れている事に感謝なのです。
走行距離…97.18km
時間…3:40:41
平均速度…26.42km/h
最高速度…50.98km/h
平均CAD…78
積算距離…49185km
消費㌍…1967kcal
補給食…825kcal
心拍…Ave.137 Max.###
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
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私は48歳からロードバイクに乗り始めましたので、常に今がピークだと思って己に負荷をかけて楽しんでいます
来年はそのコース走れるとは限りませんもんね
でも、ロードバイクは年相応、体調に合わせて楽しめるスポーツ
この歳でいい趣味に巡り会えたことを感謝しています
コギコギさんのブログを参考書にしながら
自分は49歳でロード始めました。この機会を逃すともうロード乗れないかも知れないと思ったからです。始めて良かったです。こんなに奥の深い趣味とは思いませんでした。もがき苦しんでへとへとになりながら走ってそれが”快楽主義”なんですよ。こればかりはやってみないと分かりません。
ロードバイクの楽しさって
やってみないと分からないんですよねぇ~
乗らない人にどんな説明をしようとも
理解してもらう事は難しい・・・
しかしながら、人生を大幅に豊かにするポテンシャルを秘めているのもロードバイクなんですよね。