エースが先頭集団から離脱し二人が臨時漕会列車を飛び出した! |
前回からの続きです。
日が昇り、濡れたアスファルトを乾かし始めた頃
ピットでは臨時漕会のお日様がメンバーの心を照らして回っていました。
臨時漕会メンバーの中で紅一点、おばさんです。
岡山国際サーキットの上空の雨雲を吹き飛ばしたのは
もしかしたら、このおばさんなのかもしれません。
彼女はレースに立ち向かう男達から要らない力を抜いてくれたのです。
自転車こそ私の方が先輩ですが
競技者としては私は彼女の足元にも及ばない。
私の、そして臨時漕会メンバー達の良き相談相手です。
彼女から私達は「出し切る」という事を学びました。
そう、レースで大切なのは順位やタイムではない。
「出し切った」かどうかが重要なのです。
彼女からメンバーひとりひとりに補給食の差し入れがありました。
このレースで、全てを出し切れとメッセージが込められている気がしました。
おばさんから貰った補給食をメンバー全員が背中のポケットに忍ばせて戦います。
私は一度、握りしめてからポケットに詰め込みました。
誰が言ったのか、出走直前に記念写真を撮ろうという事になりました。
臨時漕会始まって以来の大量エントリー・・・
言いかえれば我々臨時漕会にとって史上最大の作戦が始まろうとしているのです。
しかし、不思議と緊張はありませんでした。
サドルの上は一人ですが、コースの上は一人ではありません。
その事が私達を強くしていたのかもしれません。
各自が持ち場に付くように
それぞれが自分の愛車を手にします。
全員がコース上に降り立ちました。
4月21日とは思えないほど冷たい風が背中を押すように吹いていました。
半パンに生足、半袖ジャージに長袖のアンダーウエアーの出で立ちは
あくまで走行中の体温を想定してのことです。
寒さに凍え、大げさでなくガタガタと震えていました。
「早くスタートしてくれよな!
体が冷え切ってしまう!」
ライダーズミーティングとカッコイイ名前が付いているが
要は競技説明と諸注意、ルールの確認です。
スピーカーから流れるアナウンスを
私は殆ど上の空で聞いていました。
臨時漕会からエースのYKさんとhiroさんが陣取っているはず。
対して我々、臨時漕会列車は集団の後方に陣取りました。
「ぴよぴよさんは7時間の集団のどの辺にいるんだろう?」
姿の見えないメンバーに思いをはせます。
「みんな!最初は私とフクちゃんで先頭を回すからね。
慣れてきたら全員で回して行こう」
スピーカーが7時間組みがスタートした事を伝えました。
3分後に4時間組みがスタートを切ります。
やがてスタートのカウントダウンが始まると
クリートをはめる音があちこちから響き渡りました。
「パチン!パチン!パチン!」
それはまるで闘争本能にスイッチが入る音の様に聞こえました。
「3!2!1!スタート!」
いよいよ大集団が動き始めました。
細胞一つ一つが意志をもったアメーバーのごとく
長い尾を引きながら前へ前へと進んでいきます。
我々もまた、今はその細胞の一部に過ぎません。
ゴォ~ッという音がしていました。
「今回のローリングスタート、少し速度が遅くないか?」
「速過ぎて落車する奴が出るよりいいんじゃない」
そんな会話をしながらホームストレートを通過しました。
最初は私が先頭を引き
コバンザメ作戦を発動!
早々に獲物を物色し始めました。
多くのライダーの中から自分に合うペースを瞬時に見つけてスッと背後に付く。
私が誰かの後ろに付く事で
臨時漕会列車5人の脚を温存できるのです。
弾丸が飛び交う戦場で物陰に隠れながら前進する兵士の様に
風から身を隠す相手を探してサーキットを走るのです。
これがコバンザメ作戦。
エンデューロレースの戦い方は
如何にペースを守るかにあります。
ペースを守れる者にしか付かない。
逆に言えばペースを乱す者の後ろには絶対に付かない。
その見極めは、やはり経験か・・・
獲物を見極める嗅覚は
後続の3人、ヘイジさんやONIさんやタイプRさんより
経験で勝る私やフクちゃんの方が鋭い。
こうやってレースは戦うものなんだと見せつけるように
私とフクちゃんで先頭を回していました。
数周した頃に最初にサプライズ。
後方から聞き慣れた声がしました。
「先頭集団から離脱してしまった・・・」
後ろから我々の列車に並んだのは
なんと臨時漕会エースのYKさんでした。
「エッ?もう離れちゃったんですか?
まだこの列車に乗るのは早いでしょう・・・」
私が思わず言ってしまった言葉に反応して
YKさんは我々の列車をオーバーテイクしていきました。
実は今シーズン、YKさんは充分な練習量を確保できずに苦しんでいたのです。
転勤で職場環境が変わり
思うようにロードバイクに乗れない日々が続いていました。
それでも工夫して短い距離で密度の濃い練習をしてきましたが
ヒルクライムレースは何とかなっても
エンデューロレースの先頭集団にとどまる事は出来なかったようです。
先頭集団から離脱した以上、
これから先はオーソドックスにエンデューロレースを戦ってもらうしかありません。
彼には彼のペースの戦い方で
少しでも上を目指してもらいます。
我々は我々のペースで引き続き獲物を物色しながら走行していました。
そして、フクちゃんが先頭を引いている時に大物が現れました。
7人くらいの列車です。
同じチームジャージに身を包んだ
よく訓練された列車に見えました。
フクちゃんはチャンスとばかりにスッと列車の背後に付きます。
我々は5人列車ですから合計10人以上の集団が形成されました。
人数が大きければ大きいほど
空気抵抗が軽減されて有利に働くのは言うまでもありません。
しばらく、彼らのチームと我々臨時漕会の二つのチームが合体した
10人以上の小集団がコース上を走行する形になりました。
このままどこまでも彼らの後ろに付いて行く・・・
そんな選択肢もありました。
しかし、私はフクちゃんに列車から離脱するように指示を出しました。
「フクちゃん、こいつら速過ぎる!
離れよう・・・」
フクちゃんは私の指示通り列車から離脱します。
形としては臨時漕会列車の先頭を引いていたフクちゃんが
中切れを起こした形です。
その時です!
後続のONIさんとヘイジさんが加速して臨時漕会列車から飛び出しました。
後ろを振り返ったヘイジさんの顔が見えました。
ヘイジさんの顔は
「この列車に乗らなきゃどうするんっすか!」
と言っているように見えました。
「抜けるにはまだ早過ぎるぞ!」
そう思いましたが引きとめる術はありませんでした。
彼らの背中がどんどん小さくなっていきました。
「ONIさん、いちご畑で腰痛めたんじゃなかったっけ?
ヘイジさん激務で疲労が貯まってるんじゃなかったっけ?」
フクちゃんが半ばあきれるように言いました。
「あのペースなら2時間だな・・・」
二人が付いていった列車は私から見れば明らかにオーバーペース。
自分の力量を冷静に
しかも瞬時に判断しなければ
結局は脚を使って地獄を見る事になるのです。
臨時漕会は序盤から波乱のレース展開になっていました。
しかし、私とフクちゃんは一周7分のペースを目標に
タイプRさんを引き連れて黙々と
そして愚直に走り続けていました。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
エースが先頭集団から離脱し
臨時漕会列車から二人が飛び出ていくという波乱の展開になりました。
レースは走ってみなければわかりませんね。
続きは後日、書くつもりです。
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どこかのブログでは、仁王立ちの鬼監督でしたけど…f^_^;)
雨は上がったけれど、とにかく寒かったですね!
寒さで身体が硬直して 怪我に繋がらないかが心配でした。
イチゴ畑で腰を傷めた人と、激務で疲弊し切った人は 神出鬼没…あちらと思えばこちら…周回ごとに 目が離せませんでしたね(^_−)
ネタが有りすぎて大変でしょうが、続きを楽しみにしています(*^^*)
ONIさんとヘイジさんが飛び出した時のシーンが目に浮かぶようです。
いやあ、冒険も必要ですよね(^^ゞ。
自分の余力と相談しつつね(^^ゞ。
この後の展開が楽しみですね~(^^ゞ。
「いいね!」
読まないと今度、みんなで会う時に会話に加われなくなっちゃう!
でも興奮して舞い上がってしまいそうなところをコギコギさん、フクちゃんさんに模範を見せていただき、とても勉強になりました。
パチン、パチン、とクリートをはめる音が鳴り響くとき、夢の時間の幕開けでした。
そこで起こる様々なドラマは我々を虜にしてしまいます。
苦しくてもまたサーキットを走りたくなる。
それはきっと本当に夢の世界だからかもしれませんね。