臨時漕会列車が20人規模の集団を従える |
前回からの続きです。
スタートして2周は私が先頭を引く役目です。
レース経験が他のメンバーより多いとはいえスタートしてすぐにペースを掴むのは難しい。
スタート時の集団は、ほとんどがオーバーペース。
そのオーバーペースに惑わされないように
私は自分自身に精神を集中させます。
自分の肉体に残る岡山国際サーキットのペース配分の記憶を呼び起こすのです。
時には集団の流れの淀みに列車を率いたかと思うと
今度は集団の中を縫う様に列車を率います。
ゴールラインを通過した時フクちゃんが声を上げました。
「6分55秒!ええとこつくなぁ!」
2周目になると、スタート直後の混沌とした集団は影をひそめ始め
選手達がコース全体に広がって行きます。
集団の混沌の中に隠れていた臨時漕会列車が姿を現しました。
誰の後ろにも付かない。
自分達自身で先頭を回す。
いよいよ風との戦いが始まりました。
この4人だけで風の相手をするのです。
「2周目、7分20秒!ゴメン!遅すぎた!」
私自らラップタイムを叫んでみんなに謝りました。
臨時漕会列車のぎこちない先頭交代が始まりました。
私の予想よりも速いラップタイムで周回を重ねます。
7分以下のタイムはもちろん
6分30秒台も連発でマーク!
レースデビューのヘイジさんが叫んでいました。
「めっちゃ気持ちいいっす!
逝っちゃいそうっすね!」
広いコースを高速巡航する快感は体験してみなければ解らないでしょう。
脳内に快感物質のドーパミンが分泌され高揚感がみなぎります。
「気持ちいいのは最初の1時間ほど・・・
レース中盤から苦しくなってくるさ」
私はヘイジさんに答えました。
前半の高揚感がオーバーペースを生み失速の原因になるからです。
レッドマンコーナーからパイパーコーナーまでの短い直線で
私は「行けぇええ!」と叫んでいました。
ここは下り基調の直線でスピードが乗る区間です。
前半、脚があるうちは攻める。
タイムを楽に稼げるところは輪を掛けて稼いでおくのです。
エアロポジションをとり、前へ前へと進んでいきます。
逆に脚に疲労を感じ始めたら
この下り基調の直線で負荷を掛けずに脚を回し乳酸を除去する。
私にとって、ここはそういう区間なのです。
リボルバーコーナーからヘアピンにかけての登りは勾配が急になります。
何周目かの周回で私はメンバーに叫んでいました。
「ダンシング!」
メンバーそれぞれが誰に言われるともなく復唱します。
「ダンシング!」
臨時漕会列車全体がダンシングに揺れ坂を駆け上がって行きます。
シッティングもダンシングも全部使う。
それがレース!
同じ筋肉ばかり使わない。
負担は分散させるのです。
バックストレートは弱冠の向かい風。
少しずつ、我々の列車に人が集まり始めました。
私の後ろではフクちゃんが、じょにおさんに声を掛けられていたみたい。
私はレースで顔なじみの、のぶ吉さんに声を掛けられました。
のぶ吉さんはいつもミニベロで参戦なのですぐに判りました。
「コギコギさん、久しぶりです!」
「ああっ!のぶ吉さん、今日はチームでエントリーですか?」
「いいえ、今日はソロです」
「あっそうですか、うちは列車走らせてます。
後ろについてもらっていいですよ!」
そして問題のアトウッドカーブ。
このコースで最高の危険ポイントです。
バックストレートが終わるとダイブするように左に曲がりながら高速で下ります。
下りの勢いを殺してしまうと
次の登りの立ちあがりでタイムをロスしてしまいます。
逆に、下りの勢いをうまく生かせば
次の登りの立ちあがりで、惰性のまま相当前へ進む事が出来ます。
しかし、予想通り、レースデビューのヘイジさんと
レース経験が少ないボーンズさんが遅れます。
「俺、下り苦手かもしんないっす!」とヘイジさん。
「な、なんで遅れるんでしょうね?」とボーンズさん。
コーナーの立ちあがりで合流し「OKです!」先行組に声を掛けると
高速コーナーで乱れた隊列が再び一列に整列して加速してホームストレート向かいます。
「よぉ~し!ここで補給しよう!」
みんな列車を維持するのに夢中で補給がおろそかになりかねない。
各自で補給を任せるより一緒に補給した方が安全だろうという判断でした。
スタートしてからずっと一緒。
登りのダンシングも一緒なら下りコーナーの立ちあがりも一緒に走ります。
そして、ついには補給まで一緒に行っていました。
臨時漕会列車がスムーズに走れるようになるに従って
我々メンバーの心の絆も深まって行ったように思います。
チームのメンバーに確かに芽生えた連帯感。
それは普通のツーリングでは無い事だと思います。
レースという極限状態だからこそ生まれたと言えます。
レースも1時間を過ぎると全体のペースも落ち始めます。
序盤に脚を使った選手達がそろそろペースを落とし始める頃です。
風除けとして我々の列車を利用しようとする需要が
コース上に大きく漂い始めたのかもしれません。
何周目かのバックストレート。
ついに我々の夢がかなう瞬間がやってきました。
臨時漕会の中の誰かが言ったのか
それとも我々の後ろについた誰かが言ったのか
「おぉ~い!
後ろ、凄い人数が連なってるぞぉおお!」
振り向くと我々臨時漕会列車の後方に20人規模の集団が出来あがっていたのです。
私は思わず臨時漕会のメンバーに叫びました。
「今、俺たちが
集団をコントロールしているぞぉおおお!」
20人規模の集団を臨時漕会ジャージに身を包んだ我々が従えて走っている。
夢にまで見た光景でした。
ホームストレートで応援しているおばさんにも
我々の姿を見せる事が出来たに違いありません。
この瞬間のために走り続けてきたのです。
カッコよく走りたい・・・
ただそれだけ・・・
単純で子供じみた男たちの企てが成功した瞬間でした。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
花は永遠には咲かない。
桜は咲けば散っていくもの。
絶頂は長くは続かないのですね。
このあと訪れる波乱を誰が予想したでしょうか。
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この記事の写真は、じゅんきちさんから提供していただきました。
ありがとうございます。
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7臨列車の暁には、さらに気合い入れて 応援&撮影するぞ~!
慣れないレースと、スタート時の混沌とした雰囲気に怖さを感じてましたが目の前の『臨』の字を3つ見て安心しました(^_^)
一つの集団が出来た時、本当に楽しかったです(^^)その先頭を牽いた時は今でも忘れられませんよ(^.^)
それにしても下りは怖かった(((・・;)
羨ましい体験してますねー
ピンクの応援団長と致しまして一言…
「きっちりエースとして 仕事して頂きます!!!」
しかし、10人列車には まだ足りませぬなぁ…どなたか…?いかがでしょ? かわいい 男の企てに参加されませんか?
おばさんの ピンク応援では、無理か……!(◎_◎;)
あったんですよねぇ~
しかし、列車を組む事で成績はむしろアップすると
目論んでいたんです。
個人としての力は解らなくなりますが
下駄を履かせてもらえるんじゃないかと考えていました。
感動されてましたね。
あの連帯感はチームジャージの影響も大きいと思いました。
何回もレースに出ましたが
滅多に出来ない体験をさせて頂いたと思っております。
総監督として檄を飛ばしてはいかがでしょう?
今年はどうなる事かと思っていましたが
なんとか開催で来て良かったです。
若者の車離れが進んで
サーキットは車のレースでは客が呼べなくなったと聞きます。
その点自転車なら、お客は沢山来ますからね。
来年も開催されますように・・・